真実は正義。嘘は悪。
そうはならないのが人間なんですよね。
今回読んだ本は「透明カメレオン/道尾秀介(角川文庫)」です。
たくさんの残酷な真実と、たくさんの優しい嘘で溢れた物語でした。
※一応言っておきますが、おもいっきりフィクション作品です。笑
あらすじ
さて、まずはあらすじ!
主人公の恭太郎は、女性が振り向いてしまうような素敵な声の持ち主。
私の中では福山雅治さんっぽい声で再生されてます。
しかし二物を与えられないのが人生!
彼は声に期待して顔を向けた女性にがっりされてしまう容姿の持ち主でもあります。
つら・・・。
さて、そんな彼は声だけで活躍できる「ラジオパーソナリティ」という天職につき、夜の楽しい時間を提供し続けています。
ラジオで語る話は、彼行きつけのバー「if」の飲み仲間たちの事。
仲間達の話を面白おかしくラジオで語る日々を送っています。
そこにある大雨の夜、びしょ濡れになった美女がそのifに訪れます。
そこでifの面々は色々あって彼女の「復讐の計画」を手伝わされることになる。
実行犯ではなく、状況を作り出す感じの手伝いです。
恭太郎はそんな彼女に振り回され散々な目にあいますが、一緒の時間を過ごすうちに彼女の人間性を知り惹かれていきます。
やがて彼女の「復讐計画」の理由を知ったifの仲間たちはみんなで協力する事を誓う。
というお話。
感涙系エンタメ小説!と名付けられる作品です。
感想
キャラクターが面白いのに内容は思いエンタメ感抜群の作品!(ネタバレ無し)
主人公恭太郎は声”だけ”物凄く良い男性。
見た目は冴えない。そのギャップに本人は引け目を感じてしまっている人です。
そんな彼の回りも面白い人ばかりで、キャラクターがよく立っています!
エンタメ感満載なキャラクター達があるきっかけでやらされることになるのが、なんと「復讐の手伝い」
コミカルさと物々しさが共存する読み手困惑の作品でした。笑
それなのに、この本を読み終えた時には印象ががらっと変わります。
最後に残るのは深い悲しみと優しさなんです。それがこの小説の凄いところ。
文字がびっしりなところがままある点は、人によって好みが出てしまうかもしれません。
けれど、実際に読んでみるとそのびっしりと書いた表現が、テンポの良いコミカルさを出していたりもするのだ!
個人的にはすごく好きな作品です。
この本について語りたい事は、ネタバレを多分に含みます。
というか、面白い所がまんまネタバレなので、ここ以降は本を読んでから見ていただく事をおすすめします。笑
嘘に救われる事だってある(以降がっつりネタバレ)
「空き巣を刺してしまった。」
「娘に話を聞いてやれなかったが為に自ら命を絶つのを止められなかった。」
「母の不倫でっち上げ計画に気づいてしまった為に貧しい生活することになり、母から攻められ続ける子供時代を過ごした。」
「死んだふりをして反省させるだけつもりが、事故を起こさせてしまった。」
「友達に謝れなかったせいで、火災で友達が死んでしまった。」
ifにいるみんなはそれぞれトラウマを抱えて上手く生きられずにいます。
そんな皆のエピソードを少し変えて、幸せな結末を迎えた事にして恭太郎はラジオで話します。
みんなはその嘘を現実に放送してもらったことで、少しだけ前向きになるきっかけが得られるのです。
わかるような、わからないような。
「現実は変わらないのに、それで立ち直れるならとっくに立ち直ってるのでは?」なんて最初は思いました。
でも、現実から目を背ける事の大切さって、確かにあると思うのです。
具体的にはどんなときだろう。
- 成績が悪かった時。あいつよりは良いからとごまかす。
- 勝負に負けた時。努力が足りなかったから負けたと言う(未来という不確実なものに逃げる)
- 不安な時。これで良いんだと自分に言い聞かせる。
- どうしても苦しくなったとき。すべてを投げ出す(もしくはその想像をする)
- 楽しい事をして嫌なことを一時的に忘れる。
- 今後ダメならもう死ねばいいやなんて逃げ方もある。
ネガティブであれポジティブであれ、事実だけで人は動いていない。
願望や希望、妄想にひたることで生きながらえることが出来たりする。
物語の中で、「恭太郎が弱いから良いんだ」と言う場面があります。
これはifの仲間達に対する想いであると同時に、今の自分はこれで良いんだ、と言い聞かせているようにも思います。
やっと引きこもりから立ち直って、自信も家族関係も良くなってきたと思えば家族皆死んでしまって、それでも仕事で人を励ますし、ヒロイン恵の為に行動する。
恭太郎はとにかく優しく、強い人物だと思いませんか?
そんな彼の一番の武器は間違いなく「嘘」なんです。
彼の嘘は現実を生きるための防波堤になる。
現実から少し離れる事で、今日を凌ぎ、経過した時間が苦悩を過去のものへとしてくれる。
それによって明日を生きられる。
嘘っていうのは現実の中にこそ存在するものなんですね。
そもそも明日(未来)というのは現実には存在しない想像の世界に過ぎないのだから、未来に向かってなんとやらと言うのは嘘を現実に近づける作業なのだ。
この小説の中ではその逆をしている。現実を嘘に近づける。
今の苦しい現実を過去というものに持っていく作業なのかもしれない。
「優しい嘘」なんてよく言うけれど、ここまで優しく書いている小説も珍しいのではないかと思います。
この本を読んだあなたはどう感じたでしょうか?
良かったら感想を聞かせてください。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。