小説において、「少女性」というのは最強の武器のように思えます。
清廉、疾走感、夢、現実、成長、未熟さ、残酷さ、etc…
相反するものですら内包していて、小説においてはこの上ない魅力になります。
今回読んだ小説は、『少女七竈と七人の可愛そうな大人 | 桜庭一樹』です。
この本、タイトルに魅力を感じてずっと気になってました!
初めての桜庭一樹さんがこの作品で良かったと思える作品でした。
この作品を一言で表すとしたら、「それでも人生は続いていく」といった感じです!
この物語の主人公の七竃は、すれ違えば誰もが振り向く美少女。
鬼に金棒、非凡な主人公なのです。
概要
あらすじ
まず冒頭のインパクトが強かった!
この物語はプロローグとして、七竃の母・優奈がある時ふと、こんな衝動に駆られる所から始まります。
辻斬りのように男遊びをしたいな、と思った。ある朝とつぜんに。
そして五月雨に打たれるように濡れそぼってこころのかたちを変えてしまいたいな。
「お??これってもしや大人なお話か?ワクワク」
と最初思っちゃいました。笑
これは七竃が生まれる時のお話です。
母・優奈がある理由から「男狂い」し、7人の男と関係を持つ事により七竃を身ごもります。
美しい容姿に「生まれてしまった」七竃
そんなこんなで誕生を迎えた七竃。
本人としては「たいへん遺憾ながら」とても美しい容姿の持ち主として育ちます。
当然周りが放っておくことはなく、ファンクラブがあったり、スカウトがあったり。
周りの男・大人は放ってはおきません。
もちろん同性は寄り付かない。定番だね。
そして舞台は旭川の田舎町。
優奈と関係を持った男たちは「自分の子供では?」という気持ちを抱えながら、知らないフリをして過ごしています。
そして当の優奈は七竃を産んでから仕事をやめ、放浪の旅に出てばかり。
七竃は居心地の悪い町で祖父と二人暮らしをしながら、日々を過ごしています。
唯一の理解者「雪風」との関係
そんな複雑な環境で育った七竃にも、唯一の理解者がいます。
それは幼馴染の雪風。
彼は七竃同様、女性の憧れとなる容姿の持ち主。
二人は周りの目線を嫌いつつ、共通の趣味である鉄道を通して、自分達だけの世界に浸って過ごします。
しかし、時間が過ぎると共に二人の間柄にも変化が訪れる…
というお話です。
月並みな表現をするならば、「切ない愛の物語」という感じでしょうか。
それと同時に、少年少女が人生の分岐点を経て成長・変化していく話でもあります。
みどころ
まず知ってもらいたいのが、主人公の名前「七竃」について。
七竃は植物の名前です。
きれいな赤い実を付ける植物。
なぜこの名前がついたかについては、以下の文から分かります。
「……燃えづらいわけです」
「なんと、七回も竃に入れても、燃えのこることがあるという」
「しかし、そうやって七日もかけてつくった七竃の炭はたいへん上質なものらしいのです。」
この言葉をきっかけに優奈は7人と関係を持つ事を決意します。
それでも満たされる事なんてなく、最終的に生まれてきた子供にこの名前を付ける訳でした。
つまりこの本の見所は、七竃が七人の大人たちとの関わりによって成長・変化していく点です。
大人たちとの関わりによって、自分が受け入れたくない事実と向き合わなければならなくなり、やがて自分で進むべき道を見つける。
これは少女が大人の女性に向かいはじめる時期のお話です。
また、内容としては重たいのですが、実際に読むと非常に軽快です。
歌舞くって言うんですかね?
桜庭一樹さんの特徴らしいのですが、独特な言葉遣いによって軽快に読み進める事ができます。
登場人(?)物に「犬」がいる事もその一助となっているかも知れませんね!
老犬にとっては人間模様なんて些細な事なのです。
そんな一風変わった文章を楽しめるのが魅力です。
感想
成長物語であると同時に、愛を失った人の話でもある
この物語は、愛情を失った人の話でもあります。
家族からも愛されていないと感じたり、旦那の愛を独占できなかった事が許せなかったり、
好いた人が別の女性と結婚してしまったり、母親から愛情をもらえなかったり。
それでもみんな何かを求めて生きているし、許せないと思いつつも、どうやったら許せるかを心のどこかで模索している。
そんな可愛そうな人たちの人間模様がとても上手に描かれていました。
その点に関して一番心に残った台詞があります。
なんと犬プレゼンツ!笑
「ゆるしたいと思ったときに、ゆるしているのでは。女というのは、かわいいものだから。」
後半の一文がまた印象的でした。
女流作家さんだからこそ出てくる言葉かなと思います。
あ、桜庭さんは女性ですよ!「一樹」だから騙されるよね!
「七人の可愛そうな大人」って誰だろう。
タイトルに出てくる「七人の可愛そうな大人」ですが、登場人物の大人はもう少し居ます。
だから誰が七人かって確定できないのがこの物語のポイントでもあるなと思います。
何を持って「可愛そう」と定義するか。
そして、何故「可哀想」ではなく「可愛そう」なのか。
そんな所については、個人によって若干違いが出てくるんじゃないかなと思います。
これについて私は意見がはっきりしていなくて、こうだろうっていう7人とこうあってほしい7人というのがあります。
そんな風に「自分が考える7人」で読んだ人同士で話したら楽しそう!
緒方みすず後輩の存在が大きい
この物語で唯一、可愛そうでもなく大人でもない「平凡」な存在がいます。
それが後輩の緒方みすず。
この子は雪風と近づくためと称して七竃に近づくのですが、心のどこかで特別な二人(七竃と雪風)のセットに焦がれていた存在です。
最後に七竃が都会にいくと知り、恋敵が居なくなるのに泣いて嫌がります。
この平凡な少女の存在が、非凡な美しい少女の存在とその苦悩を引き立たせます。
最後に鉄道模型を渡すシーンなんかは、物語としてとても印象的です。
単純に恋愛小説(悲恋)としても読める
これは言うまでもないのですが、美少年・美少女の悲恋としても読めます。
最後の別れのシーンとかは良かった。
その後に別で書かれた話が追加されているのがちょっと野暮に感じてしまうくらい。。
気に入った文章紹介
雪風「君の母がいんらんだからだ」
一見問題発言ですが、雪風と七竃の二人はこの言葉に縋っています。
それは重みのある台詞なのです。
祖父「自分で選んだつもりでもね、じつは選ばされている。
それしかない道を、わけもわからず、振り返りもせず、突き進む。
そういうことももしかしたらあるのかもしれない」
七竃が祖父に進路について語った際の言葉です。
この物語において本も重要な言葉の一つだと思います。
そして何と言っても印象的だったのは、この小説のあり方を表したようなこの文。
バスは嵐の中の小舟のように揺れて、曲がり角を曲がった。
街路樹の葉がバスに当たり、カサカサと音を立てた。赤い実が窓ガラスを不吉に横切っていく。丸くて綺麗な血飛沫のように。
桜庭一樹さん、他の作品もそうなのかはわかりませんが、「浸れる」文章がとても印象的でした。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
